最高裁判所第二小法廷 昭和53年(オ)426号 判決 1979年3月30日
上告人
中山愛子
上告人
奥村喜久栄
右両名訴訟代理人
田邊照雄
被上告人
国
右代表者法務大臣
古井喜實
被上告人
天鷲静枝
被上告人
天鷲昭次
右二名訴訟代理人
表権七
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人田邊照雄の上告理由第一の一ないし五について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
同第二の一について
原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件公告における買収すべき農地の所有者の氏の記載の誤りは右公告手続自体を無効とするに足りず、また、本件公告手続上の瑕疵は買収対価の受領段階においてあらためて令書を交付した場合と実質的に同視しうるような告知行為により補正ないし治癒されるにいたつたとした原審の判断は、正当として是認することができ、右判断は所論引用の判例に違反するものでもない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第一の六及び第二の二について
本件買収処分の瑕疵が治癒されたものであることは前記第二の一に対する説示により明らかであり、したがつて、本件買収処分の瑕疵の治癒がなかつたことを前提とする予備的請求は理由がなく、右請求に対する原審の仮定的判示は無意味なものに帰するから、右仮定的判断を攻撃する所論は、失当である。論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(栗本一夫 大塚喜一郎 本林讓)
上告代理人田邊照雄の上告理由
第一 <省略>
第二 原判決の法令の解釈の誤り
一 上告理由第七点
原判決は、本件土地買収処分についてなされた公告手続はその法定要件である買収令書の交付ができないときという要件をかくにとどまるものであるから、
(1) 本件土地が実体上、農地買収処分の目的たる適性を具えていたこと。
(2) 有効な買収処分を前提とする国への所有権移転登記、国による管理、三子吉に対する貸付という新たな法律関係が形成されたこと。
(3) 源三の本件土地管理の不充分。
(4) 源三の買収対価の受領、及び本件土地買収経緯の説明をきいたにかかわらず、買収をやむなしとして黙認した事実。
(5) 本訴提起が源三の死後取得時効完成後に提起された事実。
等を総合勘案すれば、本件公告手続の瑕疵は、買収対価の受領段階における告知行為(説明)によつて、治癒されたと判断している(原判決九枚目裏以下一四枚目裏)。
右判断の基礎をなす事実認定に問題があることはすでに述べた通りであるが、それはそれとして、右公告手続の瑕疵の治癒についての判示は、以下の通り、法律の解釈を誤るものである。
1 原判決は本件買収処分の公告が本件土地所有者として「山田源三」とすべきところを「小田源三」としている点について、本件土地の所在、源三の住所等が正確に記載されているから、公告自体を無効にするものでないと判断する。
しかし、公告の目的は、買収令書の名宛人に対し、買収処分の事実を知らしめることを目的とするものであるから、当該名宛人が自分に対して買収処分がなされたことを認識しうるものでなければならない。その場合、まず、自分の姓名が、公告されているかどうかみて、認識するものであるから、小田源三というありふれた姓名が記載されていた場合、それをみて、山田源三を指すと認識することを期待することは、到底できない。従つて、本件公告は、その本来の目的にそわないものであることは明白で無効というほかなく、それをもつて、無効とするに足りないとした原判決の判断は自作農創設特別措置法第九条第一項但書、同第六条第五項一号の解釈を誤るものである。
2 原判決の挙げる事由のうち、新たな法律関係の形成についてはその回復が極めて容易なものであつたこと判示自体から明かであり(国への所有権移転登記を抹消し、三子吉に明渡を求めるだけでよい)、源三の本件土地管理不充分、及び、その死亡後において本件訴が提起された事実等事柄の性質上、あるいは生起した時期が原判決の認める瑕疵治癒後で公告手続の瑕疵の治癒と、無関係であることが明かな事項と共に、公告手続の瑕疵治癒の理由とならないことは特に述べるまでもない。
最後に、源三が本件土地の買収処分、及び公告の事実について説明をうけながら、対抗手段をとらずやむなしとして黙認したという点である。一見、公告手続の瑕疵を認めてもよい事由の如くであるが、源三が対抗手続をとらず、客観的に黙認とみられる状況にあつたことが、無効原因が存することを知りながらであつたのか否かが問題である。この点、原判決は何等判示するところがない。従つて、原判決の法律判断の当否を論ずる場合、無効原因の存在を知らなかつたとする外ないがそうだとすると公告手続の瑕疵を認めた原判決は不当といわざるを得ない。
自作農創設特別措置法は、買収処分の重要性から、買収処分については、記載内容を法定の上買収令書の交付、及び、公告をその要件としているのであつて、原判決の見解は、結論的に何等買収処分の権限のない府あるいは農地委員会職員の口頭による説明をもつて、それと同視するものであつて、自作農創設特別措置法第九条の解釈を誤つたものである。
更に、原判決の右判示は、最高裁判例が、買収計画にかかる農地について従前の例により買収することができるのは買収計画の公告、承認後遅滞なく、買収令書を交付する場合とか、買収計画の公告、承認後遅滞なく買収令書の交付または公告がなされたがそれが法定の要件を欠く違法のものであつたため、当該交付又は、公告の瑕疵を補正する意味で後日重ねて買収令書の交付を行う場合に限られると判示している(昭和四三年六月一三日第一小法廷判決、最高裁判所判例集第二二巻第六号一一九八頁)のと真正面から牴触するものである。<以下、省略>